「ケッ、このクズどもめ… 他にする事ないんかい!カスがっ!」
とは絶対に声に出しては言えないから、いつも心の中で叫ぶことにしている。声には出していなくても若干顔には出てしまうのか、若者の1人が睨みつけてきた。
「ジロジロ見んな!このクズがぁ…」
とは死んでも言えないから、そのままうつむくことにしている。無事に店内に入って缶ビール(発泡酒)と缶チューハイ(グレープフルーツ)といういつもの組合せを買って出た。雨が近いのかこの季節の夜にしては生暖かい空気がよどんでいる。男は疲れていた。勤めている会社の決算期という事もあって、普段にはない雑務が急増していた。仕事は出来ないほうではない、ただ、極端な合理主義者で、自分が無駄だと思う仕事に関しては徹底的に避けて通ってきた。バカだと思う上司とは話もしない、当然部下もたりである。そんな事も手伝ってか会社からは扱いにくい男として見られ続け、出世も遅い方であった。しかしなんだかんだ言ってだらだらと勤め続け、気が付けば勤続25年を迎えようとしていた。
家に着いて電気を点ける… いつもの事ながらこの瞬間にいろんな事を考えている気がする。点灯する瞬間なんてコンマ何秒かの一瞬なのだが、その一瞬に様々な思いが駆け巡る… その日の得意先でのやりとり… 会社の女子社員の言った何気ない冗談… 何年も前に別れた妻の罵声… 来る日も来る日も… 不思議な事である。とりあえずTVをつけてから風呂に入る。まるでマニュアル化されているかのようないつも通りの行動。まず帰ったら風呂に入る… もう何十年も続くこの男の常識である。理由は簡単である、ビールがうまいからである。どうせ飲むならうまい方がいいに決まっている。これも男なりの合理主義の垣間見えるところである。そしてこの日もビールを飲みながらあれこれ思っていた。
「俺はいつだって合理的だった… 信号が赤でも車が来なければ渡るし、回転寿司は全皿100円のところしか行かないし、その中でも1貫ものは取らないし、ユニクロで買う予定にないスウェットやフリースをむやみにカゴに入れたりしないし、会費3,000円以上の飲み会には参加しないし、マクドナルドではセットメニューの値段を単品ではどうなるかを必ず計算してみるし、ネクタイはドンキホーテで3本1,000円ので十分だし… 世間ではセコい男と言われ続けたが、俺に言わせりゃ〜おまえらはムダが多すぎるんだ、バカなんだよ…」
男は自分の考えに酔っていた。そして次第に思考の矛先は別れた妻との記憶に向いていった。
「あいつとも最初は何もかも合理的にうまくいってたんだ…」
恒常的に行なっていたSEXに関してもそうだった… 最初の頃は妻がイクのと男がイクのが寸分の狂いも無く同じタイミングであった。しかしある時、妻が先にイッてしまった… とたんに男はその行為がバカバカしく思えてならなかった。男の人生が変わってしまった瞬間だった。
「一緒にイカなきゃ意味がない…」
それから後も妻が先にイッてしまう日々が続いた。しかも何度も何度も連続で妻はイッてしまった。男はその度に虚しさばかりが募り、次第に自分がイク事を忘れるようになっていた。そう、イケなくなっていったのである。
男はビールを飲み干し、缶チューハイをあけながら、ふぅ〜っと溜息をついた。
「なんて身体になってしまったんだ…」
その事が原因で妻ともSEXレスになり、ついには離婚という結末にいたった。その後数年たってもまだイケない日々が続いている。もう悩んでいてもしようがないと開き直ってはいるものの、こうして1人で酒を飲んでいると、ついつい考え込んでしまう。若い頃の男は当然こんな事とは無縁であり、それどころかいくらでも早くイク事ができたものである。回転焼を食べながら1人で果てて「御座早漏〜!」と叫ぶ一発芸を持っていたほどの男である。もちろんただ悩んでいるだけでなくそれなりの医者にも診てもらったりもした。だが
「インポやEDといった状況でなく、あなたのようにビンビンに立っているのに射精出来ないというのはよくわからない…」
との見解であった。そうなのである… ちゃんと立って欲情はするのだが、最後まで至らないのである。「遅漏」とでもいうものなのか…
「♪今さら遅漏 好きだと遅漏… 」
ついくだらん歌を口ずさんでしまう事もしばしばであった。風俗へも行ってみた… ピンサロ、ヘルス、ソープ… でもどこへ行ってもイクことはなかった。手、口、素股… あらゆるテクニックを駆使されても… あるヘルス嬢などは
「いいかげんにせえよオッサン! 何しにきとんねん!」
とアゴを押さえながらキレまくっていたほどである。
缶チューハイも飲み終わろうかという頃、意味もなく点けていたTVではマジックショーが展開されていた。また最近この手の番組が増えてきたようだ。男は知らず知らずのうちにTVの中で繰り広げられる見事な手際のマジックに見入っている。しばらくして画面に出てきたのはかわいい男の子の兄弟であった。
「俺にもこのくらいの子供がいて当然なんだがなぁ…」
男はなんとなくそんな事を思っていた。男の子達は、Y兄弟といい、そのマジックのレベルはともかくも、溌剌とした子供らしい表情と、そのポイントポイントで発せられるかけ声で人気を博しているらしい。この番組でも男の子達は次々とマジックを披露し、その都度得意のかけ声を発していた。一瞬の間があった、男の目は画面を凝視していた。
「こ、こ、これは…」
目は限界まで広がり視線は固まっていた。
「こ、こ、これかもしれない…」
男は家を飛び出した。駅前のレンタルビデオ店に自転車を走らせていた。必死の立ち漕ぎ猛スピードで到着し、息を切らせながらアダルトコーナーへ突進していった。自分が最も興奮する「熟女もの」を2本選ぶと、再び立ち漕ぎで家まで突っ走った。点けっぱなしになっていたTVでは、見た事のない若い外国人のマジシャンが驚く観客に得意顔で応えていた。男は息を整え水を一杯飲んだ。そしてビデオをセットしてからティッシュの箱を自分の横に置いた。
イケそうな気がする…
きっとイケる…
イッてみせる…
自分の手で…
画面では30半ばだろうか、男好みの巨乳の女がまだ経験の浅い若い男をリードするといった、これまたこの男好みの展開になっていった。男はズボンをおろし始めた。男のものは形状的にはすでに申し分ない状態になっていた。画面の方では巨乳がユッサユッサと揺れている… 若い男がむしゃぶりつく… 男の右手がかすかに動いた。女が若い男の股間に顔を埋めている… うめく若い男… 男の右手の動きが早くなる。女の上目遣いな顔が画面全体に映し出されている… 体勢を変えにかかる若い男… 自らの巨乳に男根を挟み込もうとする女… またもやうめく若い男… 男の息遣いも次第に荒くなり、右手の動きも久々に何かを探し当てたかのように微妙な感触を楽しんでいるようである。画面の中の若い男が何か口走った… 女の胸がアップになった…
そして…
ついにその時は来た…
男は左手でティッシュを素早く抜きとり、右手は超高速で上下している… 男は叫んだ…
「オナニーニャッ!」
怒り狂った男のいちもつは、その年齢からは考えられないほどの角度で脈打ち、ティッシュなんか関係ないといった勢いで長年溜まりに溜まったものを大噴射させた。次々に放出されるその液体は、どういう事かそれぞれ何かの形を成しつつ恍惚と驚愕で放心状態の男の顔面めがけて襲いかかってきた。それは、学生の頃童貞を捨てた相手の微笑む姿であったり、別れた妻の鬼のような形相であったり、罵声を浴びせるヘルス嬢であったり、次から次へと形を変えて、訳のわからぬ音声を伴い挑んできた。
ぐわぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!
スズメたちのさえずりが聞こえている… カーテンを閉めていない窓から光が差し込んでいる。朝のようである。男にとって歴史的な出来事となった昨夜の自慰行為… どうやら恍惚とも恐怖とも受け取れる状況のまま眠ってしまったようだ。下半身むき出しの男は全身の力が抜けて簡単には起きられない状態であったが、残された力を振り絞るように立ち上がった。そして洗面所までなんとかたどり着き、鏡の中の自分を見た。
男は言った…
「顔カピカピになってもうた…」
珍しく今月3回も更新してしまったが… こんなんでええのか〜?
お好み、鉄板焼き「くま吉」近鉄伏見駅 イズミヤ近く おいしいよ^^
「居酒屋とくちゃん」東中野4丁目 ジョナサン近く よろしくね^^
