2007年09月03日

44の悲劇(つづきのつづき)

それでも私はなんとか止めようとした。が、どうする事もできない、「た、た、隊長っ! こ、こ、肛門様が…… の、の、脳の命令を聞き入れようとなさいません!」
完全に勢い付いてしまった奴らを食い止める余力など私の肛門様は持ち合わせてはいなかった。
幸いといってはなんだが、私の家は細い路地の突き当たりで、人通りは極めて少ない、激しい雨となれば尚更だ。とはいってもここはれっきとした屋外である。私は雨に打たれながらオロオロしていた。頭へ落ちる雨粒は何の障害もなく顔面へと流れ落ちる。

「うおーっ!」 

なんという事だ。七分のカーゴパンツの裾からはおそらく先頭部隊と思われる敵の一味が姿を現し、スニーカーへの侵入を謀ろうとしているではないか。

分身はこんな私を見限ったのか、知らぬ間にどこかへ消え去ってしまったようだ。とにかく一刻も早くこの惨状を収拾させなければならない。さすがに、この状況を1人で乗り越えるのは困難に思えた。まともに歩くことさえ、いや、動くことさえままならないのである。とりあえず家のドアを開け嫁を呼ぶ、
「○○ちゃ〜ん」
泣きそうな声である。いや、泣いていたかもしれない。涙も汗も雨でぐちゃぐちゃになっていたから、それはそれは情けない表情であった事は確かであろう。現れた嫁に向かって

「うんこたれた……」

「えーーーーーっ!」

120ホンで絶叫する嫁。あまりの絶叫ぶりに反応した息子達に向かって
「こっち来たらアカーン!自分の部屋入っときぃー!」
120ホンのまま指示を出す嫁。さすがにうんこをたれてオロオロしている親父の姿は見せられないという彼女の心の叫びがそのまま音声として出たという感じだ。

事は時を急いでいた。いくら人通りが少ない状況とはいえ誰かが来ないとは限らない。というより、見られたらもうお終いである。引っ越ししなければならないかもしれない。この事だけが、過去にはない経験だった。

屋外……

過去の経験はすべて屋内、それもトイレ、しかも便器直前…… そういう状況なら、やってしまった事は仕方がないとあきらめて、それなりに冷静に対処もできるだろうし、客観的に笑えてきて、近しい友達5人くらいに一斉メールもできようというものである。この違いはあまりにも大きい。とりあえず私はここから姿を消さなければならない。その為には現状のケツから足回りをなんとかしなければ始まらない。当然このままでは家に入れない。そんな暴挙にでたら二次災害で家中大パニックに陥ってしまう。

脱いだ。

大雨の降る中、玄関前で…… スニーカーまで侵略されていたので、完全な下半身丸裸状態になった。そしていろんな所に注意を払いながらガニ股のつま先歩きで風呂場へ直行と相成った。雨で冷え切った身体を温める余裕などなくシャワーをケツ辺りから太もも、膝へと流した。つぶつぶオレンジが排水口へと流れていく。臭い、強烈に臭い。

とりあえずその惨状を見られるという局面は回避できたが、これで終わった訳ではない。私は大きな溜息を一つついた。まだまだ大きな任務が残っている。残骸処理だ。玄関先では嫁が顔面神経痛状態で人が来ないか見張っている。私はトランクス(下着)とTシャツといういでたちで裏口から水撒き用のホースを持ち出した。玄関前の残骸を流してしまおうと考えたのだ。しかし、よくよく考えると、この状況もかなりやばい状況である。この大雨の中を自分の家の前でパンツ一丁でずぶ濡れになりながら水を撒いているのである。どう考えても正常な人間のする行為ではない。

次第に焦りはじめた。敵の残骸もしぶとく、なかなかきれいにならない。ズボン、パンツ、靴下とその中に分散しながらも隠れていた残骸どもをある程度落とさないことには捨てるにも捨てられない。早くしないと…… そしてようやく焦る気持ちと強烈な臭さの中、無事かどうかはわからないが、とにかく私は任務を遂行し終えた。しかし、雨、特にこんな大雨が降っていて良かったと思った事はこの日を置いて他にはない。晴れていたらと思うとぞっとする。

再び私はシャワーを浴びた。今度は芯から冷えてしまった身体を温めるべくゆっくりと…… と、息子達が言った。
「腰、大丈夫なん? ギックリ腰なったんやろ?」
どうやら嫁は私が急にギックリ腰で動けなくなったと説明していたようだ。
「ぁっああ、だいぶマシになったわ……」
そんなにすぐ直るギックリ腰があるか! 私はギックリ腰なんかよりもっと恐ろしい目にあったんだともう少しで言いそうになったが、嫁の冷やかだが威力十分の視線を感じて言葉を呑み込んだ。

何度も言ってきたが過去のこの手の経験(20歳以上)は、大きな被害を被ったものとしては30歳の頃、そして次は40歳と…… なんとなく10年周期で襲ってくるものと高を括っていた訳ではないのだが、まさか44歳でとは…… しかも屋外という初体験付きで…… 
本来ならこの手の経験に関しての持論としては、笑い飛ばし、そして乗り越えろという類のものであったが、さすがの私もこの時ばかりは強烈に応えていた。4年間で肛門様がこんなにまでも弱られていたとは…… 年齢を重ねる度に人間は、心も身体もあらゆる部分が緩くなっていくものなのだろうか? いろんな物事に触れてみたってちょっとやそっとでは感動しない、感動してもすぐ冷める、大して刺激も受けない、鈍感って奴に心を支配されてしまう。そして身体はといえば、口元や涙腺、肛門様まで…… こんなにまで緩みっぱなしになってしまうのか? 

嘆きながらも私はようやく一息ついていた。嫁は買い込んできたものを整理し始め、息子達はすっかりゲームに集中している。隣の家のトタン屋根からの音が大きくなった。雨脚がさらに強まってきたようだ。
私は今一度玄関先に出た。傘を持ち先程までの戦場跡に立って、痕跡が残っていないか辺りを見回した。さすがにこの雨だ、何もなかったかのような普段の路地の突き当たりだった。

大粒の雨が容赦なく降り注ぐ。アスファルトの黒色が激しい雨の跳ね返りで銀色に変わっていった。その色変わりの挟間に消え去っていた分身が満面の笑みを浮かべて現れた。

「隊長、ド平和ですね……」



(了)


3回に渡り最後まで読んで頂きありがとうございました。
今回の件は、近しい友人にもすぐには報告できなかったし、ここでご披露させていただくなどとんでもない事に思えていました。
しかし時間というのはなんとも恐ろしいもので、ようやくこれはご報告しなければならないと思えるようになり、今回ここに報告させていただく運びとなりました。
ご報告が遅れた事、深くお詫び申し上げます。(更新が滞っていた単なる言い訳か^^;)




お好み、鉄板焼き「くま吉」近鉄伏見駅 イズミヤ近く おいしいよ^^

「居酒屋とくちゃん」東中野4丁目 ジョナサン近く よろしくね^^ 


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posted by レッドフォックス at 22:06 | 京都 ☁ | Comment(22) | TrackBack(0) | おげれつ
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