2006年08月24日

貧乳列車 2

そんなこんなで2週間ほどたった週末、浜崎はこっそりと営業部の若手社員3人を飲みに行こうと引っ張り出した。3人共まだ20代半ばで、部長直々に誘われたとあってかなり緊張しており、中には転勤でどこかへ飛ばされるのではないかとビクビクしている者さえいた。若手社員のそんな思惑とは裏腹に飲み会は普段のちょっと一杯となんら変わらぬ雰囲気で始まった。ただ場所だけは会社から少し離れた、浜崎らが普段絶対に行かないようなちょっと小洒落た店であった。若手社員に対する気遣いというよりは、他の社員と鉢合わせになるのを避けたかっただけで選んだ店である。

「いやぁ、今日は急にすまなかったねぇ君たち、そんなに緊張せずにリラックスして、何でも好きな物どんどん頼んでくれよ」
浜崎は普段には滅多に見せない太っ腹振りを強調していた。とは言われたものの若手社員らはそう簡単には緊張の表情を崩せなかった。営業部だけでも20以上の課があり、それぞれに課長や係長、主任がいる組織の中で、何の肩書きもない自分たちが、突然に部長直々に声をかけられたのであるから無理もない。とにかく何故この場に呼ばれたのかが釈然としないといった様子で終始していた。反対に浜崎はいたって上機嫌であった。
「君たちの日頃のがんばりは、各課長からちゃんと聞いているよ。森山君だったかな?」
「ぃゃ森川です」
「あぁすまんすまん森川君、君なんかは先月かなり成績よかったみたいじゃないかぁ?」
「いえ、たまたま運がよかっただけです。」
「たまたまでも何でもいいんだよぉ、よく言うじゃないか、運も実力のうちだって、もっと自信を持ちなさい、ガハハハハハァ」
「はぁ・・・」
浜崎は適当に選んだおとなしそうな若手社員の適当な最近の情報を持ち出し、いかにも若手と懇談する気さくな上司風を呈してその場を取り繕っていた。

幾分酒がまわったのだろうか、若手社員にもようやく表情にゆとりが見え出していた。頃合いを見計らって浜崎は、とってつけたような静かな声でしゃべりだした。
「ところでさぁ、若い君たちにちょっと聞いてみたい事があるんだよ、まぁたまたま今日こうやって一緒に飲む機会があってふと思い出したんだがね・・・」
若手社員らは身構え、そして心中思っていた。
「たまたまって・・・こんな強引なたまたまはそうはない・・・」
浜崎は構わず続けた。
「実はね、僕の友達でね、最近ちょっと悩んでる男がいるんだよ。学生時代の友人なんだがね、どうやら年甲斐もなく若い女性に恋をしちゃったみたいなんだよぉ。」
なぜか中学校の修学旅行の夜に、好きな女子を発表しあうかのごとくヒソヒソ声になっていた。
「は、はぁ・・・」
若手社員らは明らかに拍子抜けした感じで中途半端な相槌を打っていた。「その友人ってのはね、僕と同い年で、女房も子供もいるいいおやじなんだけどさ、何でも聞いてみるとね、その好きになった若い女性ってのは、なんと通勤途中で見かける女性だって言うんだよねぇこれがぁ・・・」
「は、はぁ・・・」
「つまりね、どこの誰だか名前も何もわからない女性なんだなぁこれがぁ・・・」
「・・・」
「先日ばったりとその友人と会った時にねぇいきなりそんな事言うもんだからさぁ、こっちも困っちゃってねぇ、どうしたらいい?なんて聞かれてもねぇ・・・何バカな事言ってんだよ、年を考えろよ年を、女房も子供もいるんだろって言ってやったんだがね、どうも真剣に悩んでるみたいなんだよぉ」
「・・・」
「で、君たちどう思う?ちょっと意見聞かせてよー、俺の友人を助けると思ってさぁ、今日たまたま若い君たちと一緒になったんだしさぁ」
浜崎はしきりにたまたまを強調していたが、若手社員たちは互いにちらちらとアイコンタクトをとりながら、もはやたまたまではあるまいと確信していた。
「遠慮しないで何でも言ってくれよ、君たちから聞いた事を参考にしながら友人にアドバイスしなくちゃいけないからねぇ僕も」
「は、はぁ・・・」
「なんだ、言いにくいか?じゃぁ順番に聞いていこう、まず君はどう思う?森下君」
「森川です」
「すまんすまん、年をとると物忘れがひどくてなぁ、森川君、君ならどうするかね?」
浜崎は、ここは何かまともな答えを返さないと許さんぞと言わんばかりに若い森川をじっと見つめた。
「そうですねー、ありきたりな言い様かもしれませんが、好きになっちゃったもんしょーがないと思うんですよ、だから年とか世間体とかそういうんじゃなくて自分に正直に行動するしかないと思うんですがねぇ」
「そうかぁ、やはり君もそう思うかねぇ森・・・」
「森川です」
「ぁ森川君・・・」
浜崎は今自分が1番言って欲しかった答えが返ってきた事に大そう満足し、その様子を感じとった他の2人からも、言い方さえ違えどほぼ同等の内容の答えを引き出す事に成功した。

浜崎は調子に乗ってしゃべり続けていた。
「まぁ、行動を起こしたとしてね、起こしたとしてだよ、その友人はね、なんかプレゼントとか渡した方が効果的なのかなぁ?なんせその友人はね、まじめ一本やりな男でさぁ、女性にプレゼントなんてした事ない男なもんでね、今の女房とも親の勧めで無理やり見合い結婚したような奴だからさぁ、もういやんなっちゃうよぉ、ったく・・・で、どう思う?プレゼント、した方がいい?渡すとしたら何がいい?プレゼント、うんプレゼント・・・」
浜崎は身を乗り出し、懐からペンとメモを取り出していた。若手社員らは互いにチラ見しながら、もはや友人の話ではあるまいと確信していた。嘆願するかのような目で真っ先に見つめられた森川が言った。
「ぃいや、いきなりプレゼントとかそういうのはどうかと思いますが・・・その部、いやご友人がどうしても渡したいとおっしゃるのならあれですけど、たぶんいきなりそんな事されても逆に引かれちゃうと思いますが・・・」
他の2人も森川からの助けを求めるかのような視線を受けて頷いた。

こんな質疑応答が2時間半続いた。

「いやぁ、今日はどうもありがとう。僕の友人の為に若い君たちの貴重な意見が聞けて、僕はほんとに幸せ者だぁ、こんな優秀な部下がいるんだからなぁ」
店を出た浜崎は上機嫌の極みであった。
「友人には僕の方からちゃんとアドバイスしておくよ、いやぁ、ありがとう、ありがとうね」
重ねて3人に礼を言いつつ、別れ際、この年代にありがちなガッチリ握手をそれぞれと交わし帰路についた。若手社員らはなぜかニコニコしながら
「部長!ごちそうさまでしたっ!」
と一斉に頭を下げた。浜崎はそんな光景には気付かないかのごとく、駆け足だかスキップだかわからない弾み方で、地下鉄の入り口へ消えて行った。

浜崎は飲んだ後の電車の中とは思えないほど意識が冴えていた。貧乳列車が運んでくれた幸せを噛みしめながら、「よし、月曜日の朝に決行する。今の自分の気持ちを大切にするんだ、51年目の俺は生れ変わったんだ。新しい俺になるんだ・・・」週明けの月曜日は浜崎の51回目の誕生日であった。

里見千秋がこの線で通うようになって半年が経とうとしていた。短大を卒業後、親戚のコネで入社にこぎつけた中堅製薬会社に勤めていた彼女は、月曜日にしてはいつもより幾分空いていると思われる車内で辺りを見回していた。人、物、なんとなくの雰囲気と、すべてが違って見えていた。やがて憂鬱さが増し、最も通りたくない乗換え駅が近付いてくる、いつも扉にもたれるように立っていた千秋は、この日も押し出されるように1番にホームに降り立つと、いつものようにホームに並んでいる隊列に祈るような気持ちで目を向けた。最初に目が合ったのは・・・黄色のネクタイがその知的さを強調するかのような長身の若いサラリーマンであった。やはりここでも違っていた。ありえないほどの違い様に千秋の顔からは思わず笑みがこぼれた。
「どうしてこんな事に気付かなかったんだろう、たった1本早い電車に乗るだけで、こんなに気分が晴れるなんて」
と、心の中でつぶやいた。次に乗る線に向けて2、30歩ほど進んだであろうか、コーナーを曲がりながら今度は知らず知らず一人ごちていた。
「もうあんなハゲ電なんかまっぴらよ・・・」
すれ違いざま一見、出来るサラリーマン風の中年男がこちらを振り返ったような気がしたが、千秋はまっすぐ前だけを見据えていた。
「黄色のネクタイか・・・」
ヒソヒソ声でささやきながら・・・



疲れたのでこれで終わりにします^^;
スンマセン・・・



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posted by レッドフォックス at 22:48 | 京都 ☀ | Comment(10) | TrackBack(0) | お話
この記事へのコメント
「ハゲ電」!
そうきましたか!!
「友人」の話…ってのはやはり部長の話で。
読んでてこそばゆくなりました。
でも、終わっちゃうの?
いや〜ん。
Posted by 銭花 at 2006年08月25日 01:23
え〜!!!これではヘビの生殺しよ!!!
で。。。これは実はレッドさんの事?
なーんちって。。。(出演させて〜笑)
続きを早急に!!!
Posted by あんじー at 2006年08月25日 15:22
銭花さん
すんません^^;
こんなもんですわ・・・
Posted by レッドフォックス at 2006年08月25日 21:59
あんじーさん
ていうか・・・一応終わったつもりなんですけど^^;
やっぱダメダメでしたね^^; 反省・・・
スンマセン^^;
Posted by レッドフォックス at 2006年08月25日 22:02
つ、疲れたからって(-。−;)それはないっしょ。
でも、レッドさんらしいかな。
いや〜あの高校もこんな逸材を生み出したかと思うと、すんげー高校だなってローカル的な驚きを感じてますよ(^-^)
続きちゃんとお願いしますね。
Posted by に〜やん at 2006年08月26日 23:57
貧乳列車に続いて、ハゲ電!!
次は、黄色いネクタイさん主人公ですか?
こういうリレー小説良いですね。
昔、阿刀田高作品にそういう短編集がありました。
なんか文の雰囲気、阿刀田作品みたいですね。
次は、四つ乳怪獣ですね!!
Posted by フランソワ at 2006年08月27日 20:45
に〜やんさん
>続きちゃんとお願いしますね。
無いもんはないんです^^;
Posted by レッドフォックス at 2006年08月27日 21:49
フランソワさん
>次は、黄色いネクタイさん主人公ですか?こういうリレー小説良いですね。
そんな才能ございません^^; 
中途半端にこんなの書いてしまい・・・申し訳ございません^^;

Posted by レッドフォックス at 2006年08月27日 21:55
どこら辺で私が登場するのかとドキドキしながら読んでたら〜
いや〜ん 里見千秋さんって・・・
「イボンヌ」にも私の本名にも
ちっともかすりもしなかった〜 無念!

でもさ 千秋さんもそんなにハゲを嫌わなくても・・・
元々うすらハゲだった夫と結婚した私って
そう考えるとエライよね〜 (笑)
あ、そうだ
今度夫に黄色のネクタイさせなきゃ
少しは知的に見えるかもしれないからさ (笑) 
Posted by イボンヌ at 2006年08月28日 03:54
イボンヌさん
大変遅くなりました。
>元々うすらハゲだった夫と結婚した私ってそう考えるとエライよね〜 (笑)
元々うすらハゲて^^; そんな生まれつきみたいに^^;
そうそう黄色のネクタイいいですよ^^
ワシは好きです(知的に見えてるかどうかは別ですが)
Posted by レッドフォックス at 2006年09月01日 12:11
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